迷ったら“原点” に戻る!!

審査委員長 松本 英史 
(元山陰中央新報社論説委員長)

総 評

4 校がダブル上位入賞の快挙

 新型コロナウイルス禍、3年目。当初の緊張感、警戒感がややもすれば薄れがちになる日常生活と同様に、皆さんのPTA広報紙づくりにも「新型コロナとどう向き合えばいいのか」との戸惑いがにじみ出ていたように感じました。つまり「これまでのように危機感を訴えるのはどんなものか」「では何を呼びかければ共感を得られるのか」「やることをやり尽くした感がある。スタッフと会えず、アイデアが浮かばない」「展望が見えず無力感を感じる」。皆さんの声を代弁してみましたが、いかがでしょうか。
 今回は、それでも新型コロナと向かい合う視点を忘れない紙面づくりを考慮したと同時に、普遍の審査基準にも重きを置いて審査を行いました。まずは原点=振り出しに戻る、というわけです。そこで、原点となる「審査の観点」を紹介します。

(1)全体の編集やレイアウト及び見出しが読みやすい
(2)PTA活動に役立つ記事が盛り込まれている
(3)学校と地域、社会との密接な連携がうかがえる
(4)積極的な企画性やアイデアが見受けられる

の4項目です。
いかがでしょうか。編集テクニックやアイデアが重要なことはもちろんなのですが、いかにPTA活動に役立つか、学校と地域、社会との結びつきに視点を置いた紙面づくりが極めて大切なのです。私が毎回「学校行事メインから脱皮して」とお願いしているのは、この「審査の観点」によるものであり、決して無理強いをしているわけではないのです。
 総応募数は37紙。令和元年度、令和二年度の44紙、昨年度の40紙と減少傾向にあるのは、やはり新型コロナ禍のせいなのでしょうか。そんな中、新規参入が2紙あり、少し胸をなで下ろした次第です。昨年度と同じように5人の審査員が一堂に集まって審査・採点、協議を行い、全会一致で県表彰の最優秀賞、優秀賞3 紙と、全国審査に送る優良賞7紙の10紙を決定しました。
 今回の全体的な傾向は、大くくりすれば、PTA活動をメインにした紙面構成、学校行事主体の紙面構成、新型コロナに疲弊感を感じる紙面構成―に分かれたように思います。特に学校行事主体の紙面が目立った点は残念ですが、一方で審査員の話題をさらったのがダブルのダブル上位入賞でした。頭がこんがらがりそうですが、八雲中(松江市)と八雲小(同)、それと校区が重なる十神小(安来市)と安来一中(同)の4校で、ダブルのダブル。八雲中は最優秀賞、八雲小も入賞の上位、十神小と安来一中はともに県表彰の「優秀
賞」という快挙でした。審査員間で「作り手のバトンタッチがうまくいっているのではないか」「相乗作用が期待でき、来年度も楽しみ」など会話が弾みました。今後も切磋琢磨していただきたいと思います。
 審査結果は、前述したように最優秀賞に八雲中の「星雲」、優秀賞に十神小の「学鐘」と安来一中「清流」の2 紙を選出。この3紙が県表彰となります。
 優良賞として、八雲小の「まゆみ」、乃木小(松江市)の「のぎっこ通信」、大津小(出雲市)の「ふれあいおおつ」、今市小(同)の「ウキウキ発信」、津宮小(江津市)の「つのみや」、湖南中(松江市)の「ひろばこなん」、青陵中(江津市)の「青陵かわらばん」の7紙を選びました。以上、10紙が全国審査に送られます。おめでとうございます。

小学校
 応募数は昨年度より1紙少ない25紙。初参加された恵曇小(松江市)の「汐風」に感謝します。
 優秀賞に選ばれた「学鐘」は3年連続の優秀賞受賞となりました。個人的にはイチ押しでしたが、審査員全員の評価点を考慮し協議の結果、わずかの差で最高位には届きませんでした。しかし、モノクロでも色を感じさせる、いわゆる玄人好みの紙面づくりを脈々と受け継がれていることに敬意を表します。自信を持って今の道を歩んでください。昨年度同様に教職員紹介を「号外」として別刷りにしたことで、本号にスペースが生まれました。写真をたっぷり使い、イラストも多用してPTA活動、学校と地域、学校と社会の連携を視点に置いた記事、企画をフル展開。コミック漫画に出てくる美男美女を登場させるなど遊び心を持ちながら楽しく読み切らせてしまうテクニックにはうなってしまいました。内容的にも、いつもながら表紙が秀逸で、社会や地域と児童との温かいつながり、コロナ禍でも児童の笑顔、笑顔―などの写真が正面からアップでとらえられており、保護者の心をまずグッとつかみます。開けば、学校ボランティア支援の人たちと児童との活動や親子の仲良し運動会、安来市と合同企画したPTA対象の健康アンケート調査結果などが写真をフルに使い、イラストを活用して楽しく読んでもらう工夫がなされています。また、通し企画「ウワサの学鐘懇談会」では、子育ての悩みという共通テーマを、コミック漫画の男女を登場させて肩の力を抜いて読める工夫もなされています。コロナ禍のPTA活動でもグループラインでの役員間のやり取りを顔写真に吹き出しコメントで思わず読ませてしまうテクニックはさすがというしかありません。創立150周年を迎えられる本年度、最優秀賞を目指して頑張ってくださいね。
 次に全国審査に送られる優良賞の5紙について触れます。まず「まゆみ」は手にしたとき、「これまでのまゆみとひと味違う」という印象を持ちました。学校色がやや強いものの、すっきりとしたつくり、読んでもらおうという思いが伝わってきたのです。小中一貫教育の効果が、広報紙づくりにも表れた結果のダブル入賞と受け取りました。1年間のPTA活動を写真で振り返った表紙、見開きでの「給食に込められた7つの思い」特集、「みんなで守る校庭の芝生」企画は読んで見て楽しく、全体に統一感のある仕上がりになっていまし
た。興味深かったのが3号で、見た目は1、2号と同じ8ページなのに表裏の2ページ構成で、広げると保護者や教員が卒業生に贈る言葉と写真がドーン。これにはびっくりしました。PTA活動も「えがおあふれる八雲小」をカルタのようにそれぞれを頭文字にして写真入りで紹介、これも楽しく拝見しました。「分かってはいるのですけどねえ」との答えが返ってきそうなのを承知で「もう少し学校色を薄めて!」。
 「のぎっこ通信」は数少ない満票を獲得、県表彰に最も近い上位入賞と理解してください。女性5 人による広報部スタッフのチームワーク効果と思いますが、表紙の色トーンが共通して穏やかでセンスを感じるとともに、楽しみながら取り組んでいらっしゃる姿が目に浮かびました。まるで井戸端会議のように…。
それでいいのです。表紙をPTA役員の顔写真特集、道になぞらえた1年間のPTA活動の歩みが飾っているのですが、さわやかで余白を生かしたつくりで嫌味を感じません。中面は一転して写真のオンパレード。写真をくり抜いたり、ネガ調にしたりで変化を付けるとともに、余白をとって楽しい紙面に仕上げています。出色は見開きでの「のぎっ子さんの おうちじかん」特集。PTA役員らにアンケート調査し、コロナ禍での家庭での子どもの過ごし方を円グラフや写真グラフでやはり楽しく読める工夫がなされています。また、完全保存版として発熱や風邪の症状がある場合の手続きや「もしもの備蓄」「もしもの時の豆知識」を厚紙で別刷りして本紙に織り込む配慮もさすがです。
 「ふれあいおおつ」も高評価を得ました。表紙は「のぎっこ通信」と似た穏やかなイメージなのですが、手法は別。上下左右にできた余白を初夏号はアサガオや金魚、花火、冬号はクリスマスツリー、雪の結晶と季節に合わせた大ぶりなイラストでカバーすることでファンタジー効果が生まれました。イラストがなければ平凡な表紙になっていたはずで、これは真似する価値がありそうですよ。中面は「学鐘」と同じようにモノクロで「親子で染め物体験」「親子で世界で一つだけのクリスマスキャンドルホルダーづくり」「小さなPTA活動」など親子の触れ合いやPTA活動を中心にした紙面づくりがなされています。余白を生かしたり、逆に写真と記事を満載したりとページによって変化があるのも特色でしょうか。カラー裏面の「サンタさんにお願いしたいもの」「コロナが収束したらやりたいこと」「周辺のおすすめスポット」も家族の会話が弾む企画で感心しました。
 「ウキウキ発信」も高得票を得ました。やはり表紙に特色があり、8~9枚の写真をカット割りしてほぼ同じ大きさで配置しています。平凡になりがちなつくりですが、小さな窓から子どもたちの様子をのぞき見ているような感覚になるから不思議です。地色を明るい青色で統一しておりさわやかさも感じます。残念なのは1号が会長や校長あいさつ、職員紹介にほぼ費やしている点。裏面にPTA活動は寂しすぎます。2 号も学年ごとの「親子会」はあるものの、「PTA活動報告」は空白部分が目立ちました。1号の表紙にあるいろんな行事や、裏面の「あいさつ運動」「自転車交通安全教室」に中身を一変させるヒントが隠されているように思います。
 昨年度も入賞した「つのみや」は、他紙と立ち位置を変えた、手のぬくもりと懐かしさを感じる広報紙。昨年度も紹介しましたが多分パソコン仕様で、年に6回も発行し初回はA版12ページの構成でうち9ページを使用、A版表裏や表紙のみと変幻自在なのです。見てくれよりも子どもの様子や出来事を早く保護者に伝える、ということなのでしょうか。そのバイタリティーと、潔(いさぎよ)さにただただ頭を垂れるしかありません。アッパレ!!を差し上げます。

中学校
 応募数は、昨年度より2紙少ない12紙。河南中の初参加がなければと思うと、やはり河南中に感謝です。
 最優秀賞に選ばれた「星雲」は、もちろん満票を獲得、特に目を引いたのが表紙の色調とつくりです。1号は空色、2号は赤茶色、3号はピンク色で、それらのトーンを抑え気味にしたことで大正ロマン(分かるかなあ)的なムードを感じる中に、生徒の写真を円形や六
角形などのフレームに納める趣向が効果的でまずは目をひかせます。「いまさら聞けないけど」シリーズの「PTAってなに?」「キャリア教育って?」企画、アンケートによる「子どもの言い分ⅤS親の気持ち」「好きなおかずランキング」「スマホ・ネット事情」、受験生親子へのインタビューなど企画も盛りだくさんです。そこで注文なのですが、こうしたPTA主体の企画を大きく、できればメイン扱いにしていただきたいのです。これらの企画をドーンと扱えばアンケート調査のなどのきゅうくつ感は解消し、結果的に学校色は薄まっていきます。「学校こぼれ話」は面白く、ずっと続けてもらいたいものです。昨年度は自粛ムードで1号の休刊も考えながらも頑張って発行してつかんだ優秀賞でしたが、本年度はステップアップして遂に最優秀賞に。本当におめでとうございます。
 昨年度は最優秀賞を獲得、全国審査でも2位に当たる「日本PTA全国協議会会長賞」を受賞するなど、その存在感が際立つ「清流」の出来栄えを注目していました。が、残念ながら今回は優秀賞に甘んじる結果に。何がどう変わったのか。1号の表紙が全てを表していました。校舎全体の俯瞰(ふかん)写真と遠慮気味に撮った生徒のスナップ写真が載ったつくりに部員の戸惑いが凝縮されていたからです。編集後記に「スタッフが変わり、コロナ禍で集うこともできず編集にかなり苦労した」とありました。校長あいさつ、学校行事に教師紹介と内容が学校主体となっていたのも、そうした影響なのでしょうか。表彰されることが目標では決してありませんが、保護者に読んでもらう工夫や仕掛け、何より熱い思いが紙面には確かに表れ、それが結果的に表彰へと結び付くのです。昨年度の講評で「子を思う保護者の温かい思いが表紙全体からにじみ出ており、全国審査への期待大」とやや踏み込んだのも確信めいたものがあったからにほかなりません。かなり手厳しく講評したのも、「清流」だからこそであって、ご理解いただきたいと思います。
 次に優良賞の「ひろばこなん」も上位入賞の常連ですね。写真中心の編集が伝統で、今回も写真がズラリ。表紙の地色が黄緑色で統一されていて、配布物が多い中で、すぐに「ひろばこなん」と分かるのも利点と言っていいでしょう。写真中心の作りはいつも通りでしたが、1号は昨年度とほぼ同じ構成で、新PTA役員紹介を顔写真とイラストで楽しく紹介し、裏面は定番の「お弁当の日」で生徒たちのおいしそうな弁当の写真が紹介されていました。
2号ではその「お弁当の日」を見開きで特集。豪華なステーキ弁当や自分で作った弁当、お母さんと一緒に作った弁当のオンパレードで思わず唾(つば)をのんでしまいました。スタッフが楽しみながらつくっているとのこと。ただ、表紙の写真をはじめ学校行事が多いのが気になりました。
 「青陵かわらばん」は令和2 年度に続いての優良賞の受賞ですね。PTAの街頭指導、奉仕作業や親子読書活動の様子が細かく紹介されています。しっかりした紙面づくりが基本のようですが、生徒たちの集合写真にそれぞれの手書きのコメントを3ページにわたって展開する大胆な一面も。気がかりなところが2 点。一つは校長や会長のあいさつや体育祭の写真を表紙で紹介するなど、いわゆる先祖返りしていること。もう一つは6、4、2ページと号によってページ数のばらつきが目立つこと。できれば4ページに統一して中身を話し合ってみてはいかがでしょうか。令和2 年度の元気をもう一度!!
 応募いただいたすべての広報紙にコメントしたいところですが、スペースの関係で割愛させていただくことをお許しください。来年度も多くの応募をお待ちしています。